【弁護士の解答】
破産法は、否認権対象行為について、160条から162条にかけて規定しています。
主な否認対象行為の種類は以下の通りです。
- 破産者が債権者を害することを知ってした行為
- 債務額を超過する価値を持つ目的物による代物弁済
- 相当の対価を得てした財産の処分行為のうち破産者が隠匿等の処分をするおそれを生じさせる行為
- 偏波弁済
【典型例】
- 介入通知後の差押え
- 申立ての直前における不動産の譲渡
- 申立ての直前における担保権の設定や登記
- 申立ての直前における親族、知人等一部の債権者に対する弁済
- 申立ての直前における親族等に対する贈与など
【否認対象行為を発見した場合の破産管財人の対応とは】
まずは、返済を受けた債権者や、資産の譲渡・贈与を受けた第三者に対して任意に返還を求めることを検討します。 また、資産がさらに第三者に譲渡されることを防ぐため、譲渡の相手方を債務者として処分禁止の仮処分を申し立てるなども検討します。相手方が任意の返還に応じない場合、破産管財人は、否認の請求及び否認の訴え提起を検討します。否認の請求は、簡易迅速な手続きとされていますが、確定まで1ヶ月はかかりますし、相手方に異議があれば、訴訟となり手続きが長期化する可能性があります。
【参考条文】
破産法
第二節 否認権
(破産債権者を害する行為の否認)
第百六十条 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
(相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)
第百六十一条 破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
2 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第二号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
一 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
二 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者
三 破産者の親族又は同居者
(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
第百六十二条 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 前項第一号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。
一 債権者が前条第二項各号に掲げる者のいずれかである場合
二 前項第一号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合
3 第一項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前一年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する。
【弁護士の解答】
否認権の行使がなされると、破産財団を原状に復させます。
【参考条文】
破産法
(否認権行使の効果)
第百六十七条 否認権の行使は、破産財団を原状に復させる。
2 第百六十条第三項に規定する行為が否認された場合において、相手方は、当該行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、その現に受けている利益を償還すれば足りる。
【弁護士の解答】
破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は、破産財団とされており(破産法34条1項)、原則として、全ての財産が換価の対象となります。
〈法定の自由財産〉
99万円までの現金と差押禁止財産については、破産財団に属しない法定の自由財産とされています(破産法34条3項各号)。
〈法定以外の自由財産〉
裁判所によっては、換価基準を定めており、当該基準に基づき、換価対象外となる財産は、自由財産の拡張があったとみなされます。また、換価基準に基づき換価すべき財産であっても、破産法34条4項に該当する場合には、自由財産の範囲の拡張が認められる場合があります。
〈法定以外の自由財産拡張申立ての要件とは〉
裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後、1月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、①破産者の生活の状況、②破産手続開始の時において破産者が有していた財産の種類及び額、③破産者が収入を得る見込み、④その他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができます(破産法34条4項)。当該申立ては、破産者から行うべきで、裁判所の職権でなされることはほぼないので注意が必要です。
【参考条文】
破産法
(破産財団の範囲)
第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
2 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。
3 第一項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
一 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭
二 差し押さえることができない財産(民事執行法第百三十一条第三号に規定する金銭を除く。)。ただし、同法第百三十二条第一項(同法第百九十二条において準用する場合を含む。)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。
4 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。
5 裁判所は、前項の決定をするに当たっては、破産管財人の意見を聴かなければならない。
6 第四項の申立てを却下する決定に対しては、破産者は、即時抗告をすることができる。
7 第四項の決定又は前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を破産者及び破産管財人に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
【破産債権の定義】
破産債権とは、破産者に対する債権で、破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で、財団債権にあたらないものをいいます(破産法2条5項)。
【 破産債権の要件】
- 破産者に対する債権であること
- 金銭的評価が可能であること
- 執行可能な請求権であること
- 破産手続開始決定前の原因に基づくものであること
※履行期が未到来の債権であっても、破産手続開始決定を受けることで、当然に期限の利益を失い、執行可能な請求権となります(民法137条1号)。
【 破産債権の具体例】
- 破産者に対し、破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権
- 破産手続開始後の利息請求権
- 破産手続開始後の債務不履行による損害賠償または違約金の請求権
- 破産手続開始後の延滞税、利子税、延滞金の請求権
- 国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することができる租税等の請求権であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの
- 加算税または加算金の請求権
- 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金または過料の請求権
- 破産手続参加の費用の請求権
- 双務契約、市場の相場がある商品の取引に係る契約の解除により相手方が有する損害賠償の請求権
- 委任契約において、委任者に破産手続開始決定が出され、受任者が破産手続開始の通知を受けず、かつ、破産手続開始の事実を知らないで委任事務を処理した場合に生じた委任事務処理に関する請求権
- 交互計算により相手方が有する残額請求権
- 為替手形の振出人または裏書人に破産手続が開始された場合、支払人または支払予備人がその事実を知らないで引き受けまたは支払いをしたことによって生じた債権
- 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団中に現存しない場合に相手方が有する価額償還請求権
【破産債権の種類】
〈優先的破産債権〉
(1)定義
他の破産債権(一般の破産債権、劣後的破産債権、約定劣後破産債権)より優先して配当を受けることができる破産債権です(破産法98条1項)。
(2)具体例
① 破産財団に属する財産につき、一般の先取特権を有する債権(民法306条)
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共益の費用 |
但し、手続きに関するものは「財団債権」となる |
雇用関係 |
例:給料。全額が優先的破産債権である。 また、破産手続開始前3カ月分の給料債権は「財団債権」である |
葬式の費用 |
実親の葬儀費用等 |
日用品の供給 |
例:上下水道料金、電気料金、ガス料金 破産手続開始の申立ての後、開始決定が出されるまでの債権で、「破産財団の管理、換価、及び配当に関する費用の請求権」(破産法148条2項)にあたれば財団債権となります。 |
② 破産財団に属する財産について、その他一般の優先権がある破産債権
例:企業担保法に基づく企業担保権(社債)。
優先的破産債権間の順位
- 1 国税・地方税
- 2 公課(国民保険料・厚生年金保険料)
- 3 その他 私債権
〈劣後的破産債権〉(破産法99条1項)
他の破産債権が配当された後に配当を受ける破産債権をいいます。
具体例
- 破産手続開始決定後の利息
- 破産手続開始決定後の不履行による損害賠償及び違約金
- 破産手続開始決定後の延滞税、利子税、延滞金
- 国税徴収法によって徴収される請求権であって破産財団に関して破産手続開始決定後の原因に基づいて生ずるもの(破産法97条4号)
- 加算税(国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)第二条第四号に規定する過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税をいう。)
若しくは加算金(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第一条第一項第十四号に規定する過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金をいう。)の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権
- 罰金・科料・刑事訴訟費用・追徴金・過料
- 破産手続参加の費用の請求権
- 破産手続開始後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のもののうち、破産手続開始の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に一年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する破産手続開始の時における法定利率による利息の額に相当する部分
- 金額及び存続期間が確定している定期金債権のうち、各定期金につき第二号の規定に準じて算定される額の合計額(その額を各定期金の合計額から控除した額が破産手続開始の時における法定利率によりその定期金に相当する利息を生ずべき元本額を超えるときは、その超過額を加算した額)に相当する部分
〈約定劣後的破産債権〉
定義
破産債権者と破産者との間において、破産手続開始前に、当該債務者について破産手続が開始されたとすれば当該破産手続におけるその配当の順位が劣後的破産債権に後れる旨の合意がされた債権(以下「約定劣後破産債権」という。)は、劣後的破産債権に後れる(破産法99条2項)。
【破産債権の順位】
以下の順番に配当がなされます。なお、最上位は、財団債権です。
- 1 優先的破産債権
- 2 一般の破産債権
- 3 劣後的破産債権
- 4 約定劣後的破産債権
【参考条文】
破産法
第二条 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第十二章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
2 この法律において「破産事件」とは、破産手続に係る事件をいう。
3 この法律において「破産裁判所」とは、破産事件が係属している地方裁判所をいう。
4 この法律において「破産者」とは、債務者であって、第三十条第一項の規定により破産手続開始の決定がされているものをいう。
5 この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいう。
(破産債権に含まれる請求権)
第九十七条 次に掲げる債権(財団債権であるものを除く。)は、破産債権に含まれるものとする。
一 破産手続開始後の利息の請求権
二 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権
三 破産手続開始後の延滞税、利子税若しくは延滞金の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権
四 国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権(以下「租税等の請求権」という。)であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの
五 加算税(国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)第二条第四号に規定する過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税をいう。)若しくは加算金(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第一条第一項第十四号に規定する過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金をいう。)の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権
六 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権(以下「罰金等の請求権」という。)
七 破産手続参加の費用の請求権
八 第五十四条第一項(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する相手方の損害賠償の請求権
九 第五十七条に規定する債権
十 第五十九条第一項の規定による請求権であって、相手方の有するもの
十一 第六十条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)に規定する債権
十二 第百六十八条第二項第二号又は第三号に定める権利
(優先的破産債権)
第98条 破産財団に属する財産につき一般の先取特権その他一般の優先権がある破産債権(次条第一項に規定する劣後的破産債権及び同条第二項に規定する約定劣後破産債権を除く。以下「優先的破産債権」という。)は、他の破産債権に優先する。
2 前項の場合において、優先的破産債権間の優先順位は、民法、商法その他の法律の定めるところによる。
3 優先権が一定の期間内の債権額につき存在する場合には、その期間は、破産手続開始の時からさかのぼって計算する。
(使用人の給料等)
第149条 破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。
2 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前三月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前三月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前三月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする。
民法
(期限の利益の喪失)
第137条 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
(一般の先取特権)
第306条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給
(共益費用の先取特権)
第307条 共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。
2 前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。
(雇用関係の先取特権)
第308条 雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。
(葬式費用の先取特権)
第309条 葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。
2 前項の先取特権は、債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。
(日用品供給の先取特権)
第310条 日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。
【弁護士の解答】
法人破産の場合、事前に債権者に知られないことが基本です。なぜなら法人、特に営業中の法人の場合、利害関係者が多く、気軽に受任通知を送付すると、各債権者からの問い合わせや訪問が殺到して、大混乱になるおそれがあるからです。場合によっては、債権者による強引な取立てや、当該法人の在庫を無断で持ち出す自力救済などが発生し、後処理が困難になることもあります。
〈法人破産の場合の要検討事項〉
いつまでも事業を続けていると、破産債権が増えて、後になって詐欺行為といわれるおそれがあります。一方ですぐに事業を停止することが難しい場合もあるでしょう。もっとも混乱を避けることができるタイミングを探すことになります。
従業員を即時解雇するか、解雇通知にとどめてもう少し働いてもらうか
法人破産の場合、会計処理が多いので、従業員の協力がないと先に進まないことがあります。この場合、当該従業員に報酬を支払うことになります。もっとも、役員や代表に管財業務を補助してもらう場合には、報酬を支払わないことが一般的です。
〈資金移動のタイミング〉
法人が破産予定であることが金融機関に発覚すると、残高を相殺されることがあります。かといって、すぐに資金移動をすると、金融機関に怪しまれて、結局不利益を被るおそれがあります。
破産申立て前はタイミングを探って資金を引き出す、破産申立て後は、すぐに受任通知を金融機関にFAXなどで通知すべきです。破産申立の事実について金融機関を悪意にし、その後の口座への入金分を相殺禁止にするためです(破産法71条1項4号)。財産の散逸を防止することが使命。
【参考条文】
破産法
(相殺の禁止)
第七十一条 破産債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。
一 破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとき。
二 支払不能になった後に契約によって負担する債務を専ら破産債権をもってする相殺に供する目的で破産者の財産の処分を内容とする契約を破産者との間で締結し、又は破産者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結することにより破産者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
三 支払の停止があった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
四 破産手続開始の申立てがあった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、破産手続開始の申立てがあったことを知っていたとき。
2 前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する債務の負担が次の各号に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。
一 法定の原因
二 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産債権者が知った時より前に生じた原因
三 破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因
【弁護士の解答】
可能です。
【参考条文】
破産法
(破産者の事業の継続)
第三十六条 破産手続開始の決定がされた後であっても、破産管財人は、裁判所の許可を得て、破産者の事業を継続することができる。
【弁護士の解答】
破産手続開始決定前に限り、当該申立てを取り下げることができます。したがって、同時廃止事件を狙ったのだが、管財事件になったので、いったん取り下げたいと思っても、取り下げることはできません。
【参考条文】
破産法
(破産手続開始の申立ての取下げの制限)
第二十九条 破産手続開始の申立てをした者は、破産手続開始の決定前に限り、当該申立てを取り下げることができる。この場合において、第二十四条第一項の規定による中止の命令、包括的禁止命令、前条第一項の規定による保全処分、第九十一条第二項に規定する保全管理命令又は第百七十一条第一項の規定による保全処分がされた後は、裁判所の許可を得なければならない。
【弁護士の解答】
破産手続開始決定時において破産者が有する一切の財産は破産財団になります(破産法34条1項)。破産申立時が基準ではありません。したがって、破産手続申立て後、破産手続き開始決定前に、たとえば賞与が振り込まれるなど財産が大幅に増えた場合、当該賞与などは破産財団となり、賞与を生活費などに利用できず、債権者への配当にあてられるおそれがあります。
したがって、なるべく、破産手続開始決定前に、資産が少なくなるようにしなければいけません。
- 1 不自然な通帳からの出金・送金
- 2 給与振り込み・光熱費などの引き落とし履歴の有無
- 3 保険会社からの入出金
- 4 固定資産税の引き落とし
- 5 配当金の入金
- 6 給与明細や源泉徴収票からの控除内容
- 7 家計全体の状況からみたときの貯蓄額の少なさ
【弁護士の解答】
破産管財人は、債権者全ての代理人として、破産財団の増殖を図るべく、破産財団を維持、申立人の財産を換価することや、破産者の免責調査を行うことを目的としています。主な業務内容は以下のとおりです。
- 1 破産財団の占有・管理・換価
- 2 破産者の債権の確定
- 3 配当の実施
その後、形成された破産財団を、債権者に配当を行い、破産手続きは終了します。
【配当とは】
配当は、破産債権の順位や債権額に応じて配分することになります。財団債権・優先的破産債権・劣後的破産債権などの順位に気をつけることが必要です。
【就任直後の業務】
- 1 申立書類のチェックと、破産者との面談
- 2 債権調査等の実施
- 3 通帳内容の入念な確認
- 4 破産管財人口座開設
- 5 郵便物の確認
【弁護士の解答】
1 総勘定元帳
- 過去の資産・負債の変遷を詳細に調査する際に必要な資料であり、財産の調査にも債権の調査にも有用です。
2 破産者が発行した請求書・取引先から受領した納品書
- 財産調査、特に破産者に未収の売掛金がないかを確認するために有用です。
3 破産者が受領した請求書・破産者が発行した納品書
4 賃金台帳や源泉徴収簿
- 労働債権の調査に有用です。また未払賃金立替払制度の利用の可否を判断するためには必須です。
5 健康保険・厚生年金保険・雇用保険に関する書類
6 その他
- 労働保険料の徴収に関する書類、労災に関する書類、安全委員会議事録、衛生委員会議事録、安全衛生員会議事録
【弁護士の解答】
破産手続終了後、引継いだ書類は破産者に返還するのが原則です。しかし一部書類の受け取りを拒否された場合などが考えられます。保存期間は実務上、3年と考えられています(旧民法171条)。ただし、当該民法規定が現在削除されて、民法166条1項の規定が設けられたことから、今後も3年が保存期間と考えてよいかは不透明な状況です(令和2年9月12日現在)。
参考条文民法(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)第百六十七条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。(定期金債権の消滅時効)
第百六十八条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき。
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から二十年間行使しないとき。
2 定期金の債権者は、時効の更新の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。(判決で確定した権利の消滅時効)
第百六十九条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
【弁護士の解答】
異時廃止事案(全額弁済とまではいかないが、各債権額を基準に按分弁済を行うもの)と、配当事案(全額弁済できる事案)に分かれます。
【弁護士の解答】
〈財団債権〉
財団債権とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権です(破産法2条7号、152条2項)。他の破産債権に優先して弁済を受けられます。したがって、破産債権者への配当が可能かどうか、つまり配当事案となるか異時廃止事案となるかを見極める上では、当該事案における財団債権の有無、金額を正確に把握することが重要です。
財団債権の対象債権とは(破産法148条、149条)
例:破産管財人の報酬請求権、一部の租税債権、破産手続開始前3ヶ月間の破産者の使用人の給料債権、法テラスの立替費用等の手続費用、破産財団の管理、換価に関する諸費用など |
参考条文
破産法(定義)
第二条 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第十二章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
2 この法律において「破産事件」とは、破産手続に係る事件をいう。
3 この法律において「破産裁判所」とは、破産事件が係属している地方裁判所をいう。
4 この法律において「破産者」とは、債務者であって、第三十条第一項の規定により破産手続開始の決定がされているものをいう。
5 この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいう。
6 この法律において「破産債権者」とは、破産債権を有する債権者をいう。
7 この法律において「財団債権」とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう。
8 この法律において「財団債権者」とは、財団債権を有する債権者をいう。
9 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第六十五条第一項の規定により行使することができる権利をいう。
10 この法律において「別除権者」とは、別除権を有する者をいう。
11 この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(信託財産の破産にあっては、受託者が、信託財産による支払能力を欠くために、信託財産責任負担債務(信託法(平成十八年法律第百八号)第二条第九項に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)をいう。
12 この法律において「破産管財人」とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。
13 この法律において「保全管理人」とは、第九十一条第一項の規定により債務者の財産に関し管理を命じられた者をいう。
14 この法律において「破産財団」とは、破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。
(財団債権となる請求権)
第百四十八条 次に掲げる請求権は、財団債権とする。
一 破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
二 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権
三 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権及び第九十七条第五号に掲げる請求権を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの
四 破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権
五 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
六 委任の終了又は代理権の消滅の後、急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
七 第五十三条第一項の規定により破産管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権
八 破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ(第五十三条第一項又は第二項の規定による賃貸借契約の解除を含む。)があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権
2 破産管財人が負担付遺贈の履行を受けたときは、その負担した義務の相手方が有する当該負担の利益を受けるべき請求権は、遺贈の目的の価額を超えない限度において、財団債権とする。
3 第百三条第二項及び第三項の規定は、第一項第七号及び前項に規定する財団債権について準用する。この場合において、当該財団債権が無利息債権又は定期金債権であるときは、当該債権の額は、当該債権が破産債権であるとした場合に第九十九条第一項第二号から第四号までに掲げる劣後的破産債権となるべき部分に相当する金額を控除した額とする。
4 保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした行為によって生じた請求権は、財団債権とする。
(使用人の給料等)
第百四十九条 破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。
2 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前三月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前三月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前三月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする。
(財団債権の取扱い)
第百五十一条 財団債権は、破産債権に先立って、弁済する。
(破産財団不足の場合の弁済方法等)
第百五十二条 破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合における財団債権は、法令に定める優先権にかかわらず、債権額の割合により弁済する。ただし、財団債権を被担保債権とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権の効力を妨げない。
2 前項の規定にかかわらず、同項本文に規定する場合における第百四十八条第一項第一号及び第二号に掲げる財団債権(債務者の財産の管理及び換価に関する費用の請求権であって、同条第四項に規定するものを含む。)は、他の財団債権に先立って、弁済する。
〈優先的破産債権とは〉
1 財団債権より劣後しますが、一般の破産債権より優先弁済を受けられる債権のことをいいます(破産法98条1項。)優先的破産債権の中でも、さらに優先順位が定められており、当該順位は、民法、商法、その他の法律に定めるところによります(破産法98条2項)。
2 優先順の具体例
- ① 公租(国税・地方税)
- ② 公課(社会保険料・下水道料金)
- ③ 共益費用に関する債権
- ④ 雇用関係に関する債権
- ⑤ 葬式費用に関する債権
- ⑥ 日用品供給に関する債権
3 注意点
(1)公租公課は破産手続開始前の原因に基づいて生じたものか否か、具体的納期限の時期、本税か延滞税か等によって財団債権か、優先的破産債権か、劣後的破産債権か、異なってきます。 |
(2)労働債権も、いつの時期の労働債権かによって財団債権となるか、優先的破産債権となるか、異なってきます。 |
参考条文
破産法
(優先的破産債権)
第九十八条 破産財団に属する財産につき一般の先取特権その他一般の優先権がある破産債権(次条第一項に規定する劣後的破産債権及び同条第二項に規定する約定劣後破産債権を除く。以下「優先的破産債権」という。)は、他の破産債権に優先する。
2 前項の場合において、優先的破産債権間の優先順位は、民法、商法その他の法律の定めるところによる。
3 優先権が一定の期間内の債権額につき存在する場合には、その期間は、破産手続開始の時からさかのぼって計算する。
(劣後的破産債権等)
第九十九条 次に掲げる債権(以下「劣後的破産債権」という。)は、他の破産債権(次項に規定する約定劣後破産債権を除く。)に後れる。
一 第九十七条第一号から第七号までに掲げる請求権
二 破産手続開始後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のもののうち、破産手続開始の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に一年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する破産手続開始の時における法定利率による利息の額に相当する部分
三 破産手続開始後に期限が到来すべき不確定期限付債権で無利息のもののうち、その債権額と破産手続開始の時における評価額との差額に相当する部分
四 金額及び存続期間が確定している定期金債権のうち、各定期金につき第二号の規定に準じて算定される額の合計額(その額を各定期金の合計額から控除した額が破産手続開始の時における法定利率によりその定期金に相当する利息を生ずべき元本額を超えるときは、その超過額を加算した額)に相当する部分
2 破産債権者と破産者との間において、破産手続開始前に、当該債務者について破産手続が開始されたとすれば当該破産手続におけるその配当の順位が劣後的破産債権に後れる旨の合意がされた債権(以下「約定劣後破産債権」という。)は、劣後的破産債権に後れる。
(破産債権に含まれる請求権)
第九十七条 次に掲げる債権(財団債権であるものを除く。)は、破産債権に含まれるものとする。
一 破産手続開始後の利息の請求権
二 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権
三 破産手続開始後の延滞税、利子税若しくは延滞金の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権
四 国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権(以下「租税等の請求権」という。)であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの
五 加算税(国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)第二条第四号に規定する過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税をいう。)若しくは加算金(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第一条第一項第十四号に規定する過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金をいう。)の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権
六 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権(以下「罰金等の請求権」という。)
七 破産手続参加の費用の請求権
八 第五十四条第一項(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する相手方の損害賠償の請求権
九 第五十七条に規定する債権
十 第五十九条第一項の規定による請求権であって、相手方の有するもの
十一 第六十条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)に規定する債権
十二 第百六十八条第二項第二号又は第三号に定める権利
【弁護士の回答】
破産管財人が財団債権を承認する場合、その財団債権の額が100万円をこえていると、裁判所の許可が必要になります(破産法78条2項13号、同条3項1号、破産規則25条)。ここにいう「100万円」とは、当該財団債権者に実際に弁済する金額ではなく、当該財団債権の額です。承認許可の申立てが必要になります。
なお、破産管財人の報酬以外に破産財団がないような場合には、配当原資が一切ないため、承認許可の申立ては不要です。一方で、少しでも配当する必要があるとみられる場合には、承認許可の申立ては必須です。
【破産管財人による事業継続】
破産法36条は、「破産手続開始の決定がなされた後であっても、破産管財人は、裁判所の許可を得て、破産者の事業を継続することができる」と定めています。破産手続は破産財団を換価して清算することを目的としていますので、同条の「事業の継続」は、基本的には、破産財団が増殖、維持でき、有利な換価につながる場合に例外的に認められるものです。
〈具体例〉
破産者が建設会社や製造業者で、仕掛中の工事や仕掛品等の半製品があり、それらを短期間に完成させることが可能で、完成品を有利に換価できる場合(破産財団の増殖)、事業を廃止すると損害賠償や違約金の支払義務が発生する場合(破産財団の維持)などがあげられます。
また、破産財団の増殖、維持が見込まれない場合であっても、多数の入院患者がいる病院の破産、多数の生徒が在学中の学校の破産など事業を廃止すると社会的影響が大きい場合にも事業継続をするときがあります。また、事業を廃止すると顧客や取引先に大きな損害が発生する可能性が高い場合にも事業の継続を行うことがあります。
【破産者個人による事業継続】
破産者個人や破産法人の代表者が事業主体となって、破産財団に属する財産を使用しないで事業を行う場合をいいます。これは破産法36条の規定とは無関係です。同条に基づく事業継続は、破産手続が再建を目的としていないので、比較的短期間の事業継続であり、いずれは事業は廃止また譲渡されることになりますが、破産者個人による事業継続にはそのような成約はなく、可能な限り事業を継続することができます。
〈事業継続の要件〉
(1)事業継続の必要性 |
破産者の年齢、これまでの破産者の職歴や雇用環境等から他の業種への転職が難しいなど、破産者の生活保障や経済的更生の点から判断します。 |
(2)事業継続の具体的な実現可能性 |
今後、同じ事業を継続して生計維持が可能かどうかを、債務総額のうち事業による債務額の占める割合、売上状況等から判断します。 |
〈注意点〉
破産手続開始決定がなされると、開始決定時に破産者が所有する財産は破産財団を構成します(破産法34条1項)ので、当該破産財団と事業継続に使用する財産を明確に区分する必要があります。
そして破産者個人が事業継続を望む場合には、破産管財人としては、区分された破産財団のうち、破産者個人に対して事業に必要なものを売却するとか、自由財産拡張するとか、親族に買い取ってもらうとか、の手続きが必要になります。なお、個人事業主の場合は、民事執行法131条6号で「技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者のその業務に欠くことができない器具その他の物」は差押禁止財産とされており、大工の道具類などはこれに該当し、本来的自由財産となりえます。
【弁護士の解答】
自由財産とは、破産者の財産で、破産手続開始後も破産財団に組み込まれず、破産者の事由になる財産です。具体的には、以下のとおりとなります。
- 1 99万円以下の金銭(破産法34条3項1号、民執法131条3号、民執令1条)
但し、この99万円にあたるのは、原則として破産手続開始決定時における現金だけであり、申立直前に預貯金の払い戻しをしたり、生命保険を解約して解約返戻金を現金化しても、この99万円には当たらない。自由財産拡張申立てが別途必要になります。もっとも、裁判所によっては、普通預金を現金と同視する個別の運用がなされています。
(1) |
債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具 |
(2) |
債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料 |
(3) |
標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭 |
(4) |
主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物 |
(5) |
主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物 |
(6) |
技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。) |
(7) |
実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの |
(8) |
仏像、位牌(はい)その他礼拝又は祭祀(し)に直接供するため欠くことができない物 |
(9) |
債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類 |
(10) |
債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物 |
(11) |
債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具 |
(12) |
発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの |
(13) |
債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物 |
(14) |
建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品 |
(差押禁止債権)
第百五十二条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額(44万円)を超えるときは、政令で定める額(33万円)に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。
1 |
生活保護受給権(生活保護法58条) |
2 |
各種年金受給権(国民年金法24条) |
3 |
小規模企業共済(小規模企業共済法15条) |
4 |
中小企業退職金共済(中小企業退職金共済法20条) |
5 |
平成3年3月31日以前に具体化している簡易保険契約の保険金請求権又は還付金請求権(旧簡易生命保険法50条) |
【弁護士の解答】
本来的自由財産以外の財産を自由財産とできる制度です。本来的自由財産のみでは、破産者の経済的更生に足りないときに利用します。自由財産拡張精度は、当該破産者等の状況、その具体的必要性を考慮して判断されます。多くの裁判所では、あらかじめ一定の基準を設けて自由財産拡張の可否を判断しており、その基準は各地の事情によって異なります。
〈手続きの流れ〉
- 破産者が自由財産拡張申立てをする(破産法34条4項)。
- 管財人の意見聴取が行われる(同5項)
- 裁判所が拡張の裁判を行う(同4項)。
〈管財人の動向〉
管財人は、①拡張申立てにかかる財産の時価を適切な方法で評価する。②破産者の生活状況などを調査して、当該財産の拡張の可否を調査する。管財人と裁判所の判断が合致した場合、裁判所は黙示の決定を出し、管財人は当該財産を破産者に変換します。合致しないときは、管財人は破産者と協議して、拡張申立ての範囲の変更を行います。管財人と破産者で協議が決裂した場合、裁判所が決定を出します。
【参考条文】
民執法
(継続的給付の差押え)
第百五十一条 給料その他継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、差押えの後に受けるべき給付に及ぶ。
(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)
第百五十一条の二 債権者が次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権を有する場合において、その一部に不履行があるときは、第三十条第一項の規定にかかわらず、当該定期金債権のうち確定期限が到来していないものについても、債権執行を開始することができる。
一 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
二 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
三 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
四 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
2 前項の規定により開始する債権執行においては、各定期金債権について、その確定期限の到来後に弁済期が到来する給料その他継続的給付に係る債権のみを差し押さえることができる。
【弁護士の解答】
財団債権とは、破産手続きによらないで破産財団から臨時弁済を受けることができる債権をいいます(破産法2条7項)。
【破産債権との違い】
財団債権は破産配当を待たずにその都度(随時)、破産財団から弁済を受けることができる点で、破産債権と大きく異なります。
【財団債権の沿革】
財団債権は、破産手続きを進めるために必要とされる費用や、手続きを進める中で発生した債権など、債権者全員の利益のためという「共益性」があったり、租税債権や労働債権(給料など)のように社会的に優先権を認めるべきものであるため、破産債権より優遇されています。
【財団債権の種類(破産法148条)】
1 |
破産債権者の共同の利益にためにする裁判上の費用(破産法148条1項1号) 例:破産申し立て費用・破産広告の費用・債権者集会の招集費用など |
2 |
破産財団の管理、換価、配当に関する費用(同2号) 例:破産管財人の報酬請求権、財産目録の作成費用(破産法153条2項)など |
3 |
破産財団に関し管財人のなした行為により生じた請求権(同4号) 例:破産財団に属する財産を換価するために破産管財人が行った法律行為(売買、賃借など)により、生じる債権。例えば破産管財人が職務を遂行するために他人(第三者)との間で不動産の賃貸借契約をしたり、必要な人材を雇用したりするときに発生する請求権(賃料請求権、報酬請求権)など。 |
4 |
事務管理・不当利得により財団に対して生じた請求権(同5号) 例:破産手続き開始決定後に破産財団のためになされた事務管理に基づく費用償還請求権など |
5 |
委任終了又は、代理権消滅後、急迫の必要のためになした行為により財団に対して生じた請求権(同6号) 例:委任終了後、急迫の事情により受任者などが行った事務処理費用など。 注意:急迫の事情がなく、さらに破産手続き開始決定が出されていることを知らずに行ったため生じた請求権は、破産債権とされる。 |
6 |
双方未履行の双務契約において、管財人が債務の履行を選択した場合において、相手方の有する請求権(同7号)(破産法53条1項) |
7 |
破産手続きの開始により、双務契約につき解約の申し入れがあった場合において、その終了に至るまでに生じた請求権(同8号) |
8 |
租税債権(同3号) 例:①破産手続開始時に、具体的納期限が到来していないもの、②具体的納期限から1年を経過していないもの 注意:それ以外は破産債権です。具体的納期限から1年以上経過している租税債権で、滞納処分を行わなかったことから優先権を失ったものは、優先的破産債権になります(破産法98条1項)。
|
9 |
労働債権(破産法149条1項) 未払い請求権については、破産手続開始前3か月間のものを財団債権とし、それ以前のものは優先的破産債権(破産法98条1項)です。 退職金債権については、退職前3か月の給料の総額に相当する額を財団債権(破産法149条2項)としました。 |
【参考条文】
破産法
(双務契約)
第五十三条 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
2 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
3 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第六百三十一条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第六百四十二条第一項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。
(財団債権となる請求権)
第百四十八条 次に掲げる請求権は、財団債権とする。
一 破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
二 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権
三 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権及び第九十七条第五号に掲げる請求権を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの
四 破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権
五 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
六 委任の終了又は代理権の消滅の後、急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
七 第五十三条第一項の規定により破産管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権
八 破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ(第五十三条第一項又は第二項の規定による賃貸借契約の解除を含む。)があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権
2 破産管財人が負担付遺贈の履行を受けたときは、その負担した義務の相手方が有する当該負担の利益を受けるべき請求権は、遺贈の目的の価額を超えない限度において、財団債権とする。
3 第百三条第二項及び第三項の規定は、第一項第七号及び前項に規定する財団債権について準用する。この場合において、当該財団債権が無利息債権又は定期金債権であるときは、当該債権の額は、当該債権が破産債権であるとした場合に第九十九条第一項第二号から第四号までに掲げる劣後的破産債権となるべき部分に相当する金額を控除した額とする。
4 保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした行為によって生じた請求権は、財団債権とする。
(使用人の給料等)
第百四十九条 破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。
2 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前三月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前三月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前三月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする。
【弁護士の解答】
委任者又は受任者のどちらかに破産手続開始決定が出されると、委任契約は終了します(民法653条)。したがって、委任関係に基づいてなされた行為から生ずる費用などは、破産財団とは原則として関係がないことになります(急迫の必要のためになした事務管理などを除く。)。
【弁護士の解答】
破産手続開始時に破産財団に属する財産に設定されている特別の先取特権(民法311条、325条)、質権(民法342条)、抵当権(民法396条)、根抵当権(民法398条の2)を別除権といいます。
【参考条文】
破産法2条
9 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第六十五条第一項の規定により行使することができる権利をいう。
10 この法律において「別除権者」とは、別除権を有する者をいう。
(別除権)
第六十五条 別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
2 担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。
【弁護士の解答】
生命保険等の換価基準は、高松地方裁判所では20万円以上の場合とされています。ここで20万円以上とは、生命保険等の各種保険の解約返戻金の総額をさします。したがって1つの保険の解約返戻金が20万円に満たない場合でも、合計が20万円以上の場合、すべての保険が換価対象になります。ただし、当該保険を担保にした契約者貸付が行われている場合、解約返戻金から契約者貸付金額を控除した金額が破産財団を構成し、換価基準となります。
したがって、破産申し立て前に保険を解約して現金化して生活費などにあてるとか、契約者貸付を利用しておくことが必要になることもあります。なお、保険の解約返戻金を用いて、破産手続費用や管財費用を準備することが問題視されることは少ないです。