【別居中の在留資格について】
(1)日本人夫と4年8ヶ月別居しているタイ人妻の在留資格変更申請の不許可処分を適法とした判例【最判平成14年10月17日判タ1109号113頁】
「日本人との間に婚姻関係が法律上存続している外国人であっても、その婚姻関係が社会生活上の実質的基礎を失っている場合には、その者の活動は日本人の配偶者の身分を有するものとしての活動に該当することができないと解するのが相当である。そうすると、上記のような外国人は『日本人の配偶者等』の在留資格取得要件を備えているということができない。」
「上記事実関係によれば、被上告人(タイ人妻)は、日本人の配偶者として本邦に上陸した後A(日本人夫)と約1年3ヶ月間同居生活をしたが、その後本件処分時まで約4年8ヶ月にわたり別居生活を続け、その間、婚姻関係修復に向けた実質的、実効的な交渉等はなく、それぞれ独立して生計を営み、AはBとの間に子2人を認知してこの3人との同居生活を継続していたというのであり、また、被上告人は、Aと離婚する決心はついていなかったものの、Aに対し、在留期間の更新がされれば離婚する旨を述べたり、離婚を約束する書面及び離婚届を作成して同書面及び離婚届の写しを自分の弁護士を介して交付するなどしており、他方、Aは、離婚意思を有し、本件処分当時、被上告人に対して婚姻関係を修復する意思のないことを告げ、ただ、被上告人に対して在留期間更新申請についてのみ婚姻関係の外観を装うことに協力するなどしていたというのが相当である。」
【結論】
したがって、外国人夫と日本人妻との婚姻関係が、別居等により社会生活上の実質的基礎を失っていると判断される場合には、外国人夫は、離婚していなくても、「日本人の配偶者等」の在留期間の更新請求は許可されない可能性があります。
【弁護士の解答】
平成16年の出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」といいます)改正で、特定の事由が生じた場合又は判明した場合に、在留期間の途中であっても、在留資格が取り消される制度が設けられ、その後の改正で、取消事由が追加されています(入管法22条の4第1項)。離婚に関連して問題となるのは同項7号です。
7号の「その配偶者の身分を有する者としての活動を継続して六月以上行わない」場合とは、外国人が配偶者と離婚した場合、死別した場合、婚姻が社会生活上実質的基礎を失っている場合をいいます。 しかし、このような場合であっても、正当な事由がある場合には、在留資格の取消しはされません。
【正当な事由の具体例】
・ 配偶者からの暴力を理由として一時的に避難又は保護を必要としている場合
・ 子供の養育等やむを得ない事情のため配偶者と別居して生活しているが生計を一にしている場合
・ 本国の親族の傷病などの理由により、再入国許可(みなし再入国許可を含む。)による長期間の出国をしている場合
・ 離婚調停又は離婚訴訟中の場合
なお、入管法では、前記7号に基づき在留資格の取消しをしようとする場合、在留資格変更許可申請又は永住許可申請の機会を与えるように配慮しなければならないとも定められています(入管法22条の5)
参考条文 出入国管理及び難民認定法
(在留資格の取消し)
第二十二条の四 法務大臣は、別表第一又は別表第二の上欄の在留資格をもつて本邦に在留する外国人(第六十一条の二第一項の難民の認定を受けている者を除く。)について、次の各号に掲げるいずれかの事実が判明したときは、法務省令で定める手続により、当該外国人が現に有する在留資格を取り消すことができる。
一 偽りその他不正の手段により、当該外国人が第五条第一項各号のいずれにも該当しないものとして、前章第一節又は第二節の規定による上陸許可の証印(第九条第四項の規定による記録を含む。次号において同じ。)又は許可を受けたこと。
二 前号に掲げるもののほか、偽りその他不正の手段により、上陸許可の証印等(前章第一節若しくは第二節の規定による上陸許可の証印若しくは許可(在留資格の決定を伴うものに限る。)又はこの節の規定による許可をいい、これらが二以上ある場合には直近のものをいうものとする。以下この項において同じ。)を受けたこと。
三 前二号に掲げるもののほか、不実の記載のある文書(不実の記載のある文書又は図画の提出又は提示により交付を受けた在留資格認定証明書及び不実の記載のある文書又は図画の提出又は提示により旅券に受けた査証を含む。)又は図画の提出又は提示により、上陸許可の証印等を受けたこと。
四 偽りその他不正の手段により、第五十条第一項又は第六十一条の二の二第二項の規定による許可を受けたこと(当該許可の後、これらの規定による許可又は上陸許可の証印等を受けた場合を除く。)。
五 別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者が、当該在留資格に応じ同表の下欄に掲げる活動を行つておらず、かつ、他の活動を行い又は行おうとして在留していること(正当な理由がある場合を除く。)。
六 別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者が、当該在留資格に応じ同表の下欄に掲げる活動を継続して三月(高度専門職の在留資格(別表第一の二の表の高度専門職の項の下欄第二号に係るものに限る。)をもつて在留する者にあつては、六月)以上行わないで在留していること(当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く。)。
七 日本人の配偶者等の在留資格(日本人の配偶者の身分を有する者(兼ねて日本人の特別養子(民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百十七条の二の規定による特別養子をいう。以下同じ。)又は日本人の子として出生した者の身分を有する者を除く。)に係るものに限る。)をもつて在留する者又は永住者の配偶者等の在留資格(永住者等の配偶者の身分を有する者(兼ねて永住者等の子として本邦で出生しその後引き続き本邦に在留している者の身分を有する者を除く。)に係るものに限る。)をもつて在留する者が、その配偶者の身分を有する者としての活動を継続して六月以上行わないで在留していること(当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く。)。
八 前章第一節若しくは第二節の規定による上陸許可の証印若しくは許可、この節の規定による許可又は第五十条第一項若しくは第六十一条の二の二第二項の規定による許可を受けて、新たに中長期在留者となつた者が、当該上陸許可の証印又は許可を受けた日から九十日以内に、出入国在留管理庁長官に、住居地の届出をしないこと(届出をしないことにつき正当な理由がある場合を除く。)。
九 中長期在留者が、出入国在留管理庁長官に届け出た住居地から退去した場合において、当該退去の日から九十日以内に、出入国在留管理庁長官に、新住居地の届出をしないこと(届出をしないことにつき正当な理由がある場合を除く。)。
十 中長期在留者が、出入国在留管理庁長官に、虚偽の住居地を届け出たこと。
2 法務大臣は、前項の規定による在留資格の取消しをしようとするときは、その指定する入国審査官に、当該外国人の意見を聴取させなければならない。
3 法務大臣は、前項の意見の聴取をさせるときは、あらかじめ、意見の聴取の期日及び場所並びに取消しの原因となる事実を記載した意見聴取通知書を当該外国人に送達しなければならない。ただし、急速を要するときは、当該通知書に記載すべき事項を入国審査官又は入国警備官に口頭で通知させてこれを行うことができる。
4 当該外国人又はその者の代理人は、前項の期日に出頭して、意見を述べ、及び証拠を提出することができる。
5 法務大臣は、当該外国人が正当な理由がなくて第二項の意見の聴取に応じないときは、同項の規定にかかわらず、意見の聴取を行わないで、第一項の規定による在留資格の取消しをすることができる。
6 在留資格の取消しは、法務大臣が在留資格取消通知書を送達して行う。
7 法務大臣は、第一項(第一号及び第二号を除く。)の規定により在留資格を取り消す場合には、三十日を超えない範囲内で当該外国人が出国するために必要な期間を指定するものとする。ただし、同項(第五号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消す場合において、当該外国人が逃亡すると疑うに足りる相当の理由がある場合は、この限りでない。
8 法務大臣は、前項本文の規定により期間を指定する場合には、法務省令で定めるところにより、当該外国人に対し、住居及び行動範囲の制限その他必要と認める条件を付することができる。
9 法務大臣は、第六項に規定する在留資格取消通知書に第七項本文の規定により指定された期間及び前項の規定により付された条件を記載しなければならない。
(在留資格の取消しの手続における配慮)
第二十二条の五 法務大臣は、前条第一項に規定する外国人について、同項第七号に掲げる事実が判明したことにより在留資格の取消しをしようとする場合には、第二十条第二項の規定による在留資格の変更の申請又は第二十二条第一項の規定による永住許可の申請の機会を与えるよう配慮しなければならない。
【弁護士の解答】
日本人妻との離婚等によって「日本人の配偶者等」の在留資格該当性がなくなった場合でも、他の在留資格の該当性があれば、その在留資格への変更許可申請をすることができます。
【外国人が日本人の実子を養育する場合】
入国管理局の平成8年7月30日の通達(法務省管在第2565号「日本人の実子を扶養する外国人親の取扱についての通達」)によって、以下の要件に該当する場合には、「定住者」の在留資格への変更が許可されています。
① 日本人の嫡出子又は日本人の父から認知がなされている子の親であること。なお、日本人父の認知は必要ですが、子の日本国籍取得手続が完了している必要はありません。
② 当該子が未成年かつ未婚であること
③ 当該外国人が親権を有し、現に相当期間監護養育をしていること
したがって、外国人が親権者として日本人の実子を監護養育していることが必要とされています。
法務省入国管理局は、「日本人配偶者等」または「永住者の配偶者等」から「定住者」への在留資格変更が認められた事例、認められなかった事例をウェブサイトで公表している。認められた事例で主要なものは、日本における実質的婚姻期間が少なくとも3年以上はある場合と考えられます。
【参考HP】
http://www.immi-moj.go.jp/tetuduki/kanri/qa.html
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00057.html