パワハラ・セクハラに関するご相談の前に以下のものを準備していただくと今後の見通しがつきやすくなります。
- パワハラ・セクハラ行為の録音
- パワハラ・セクハラ行為を記録したメモ、日記など
これらは、立証するための大切な証拠となります。職場を離れてしまう前であれば、必ず資料を集めるようにしましょう。
【弁護士の解答】
一般的にパワー・ハラスメント(以下、「パワハラ」といいます。)と呼称されている行為は極めて広範なものとなっています。そのため、パワハラと呼称されている全ての行為が違法な評価を受けるものではありません。したがって、パワハラの定義に当てはまったとしても、全部が違法とはなりません。
【パワハラの定義】
パワハラとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」をいいます(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)30条の2第1項参照)。
【厚生労働省の定義】
パワハラとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。
【パワハラの典型的6類型】
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
【裁判実務】
厚生労働省の定義付けに強い影響を受けており、概ね
①優位性を背景に
②適正な範囲を超えて
③精神的・身体的苦痛を与え、又は職場環境を悪化させる行為
と捉えています。
【弁護士の解答】
ありえます。京都地判平成27年12月18日では、
①上司の業務上の経験や適性の有無
②上司の部下に対する監督権限の有無
③部下の不適切な行動を容認するような職場の状況等
といった事情次第では、部下に優位性が認められ、部下の行動がパワハラになることを示しました。
【弁護士の解答】
【パワハラとなりやすい要素】
その1 言動の内容
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有形力の行使 |
手を挙げることはもちろん、例えば、悪ふざけで輪ゴムを飛ばす、叱責中に机をたたくなどの威圧行為、扇風機の風を連日当て続ける(東京地判H22.7.27)などが違法になる。 |
脅迫・侮辱・名誉棄損 |
これらの行為は、業務との関連で必要性や相当性はないためパワハラとなる。以下は一例。
【人間性を否定する発言】
- 事務局長の犬(東京地判H23.7.26)
- 凝り固まった化石(長崎地判H22.10.26)
- 君の人格には問題がある(宮崎地判H20.11.28)
【能力不足を馬鹿にする発言】
- 研究者失格(前橋地判H29.10.4)
- 小学生の文書みたいやな(大阪高判H29.9.29)
- 新入社員以下だ(東京地判H26.7.31)
【名誉棄損的言動】
- 100枚という極めて大部の反省文の作成を命じたこと(静岡地浜松支判H23.7.11)
- 作業指示書のほとんど全文をすべて平仮名で記載したこと(東京地判H28.12.20)
- 「これこそ横領だよ」「詐欺と同じ、3万円泥棒したのと同じ」と相手を犯罪者呼ばわりしたこと(福井地判H26.11.28)
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退職推奨・退職強要 |
退職は、通常、労働者に大きな不利益を与えるものであり、望まない退職を促されたり、強いられたりすることは、強度の心理的負荷を与えることにつながるため、パワハラになりえる。
例えば、「辞めてもいいぞ」と告げたり、減給や降格などの不利益処分の告知も、パワハラになりうるとした判例がある。 |
過大な要求・強要 |
業務との関連で必要性・相当性が乏しく、労働者の心身に強度の負荷をかけるため、違法となる。
例えば、達成が極めて困難な厳しいノルマ設定をすること。(長崎地判H22.10.26)
会社売れ残り商品の買い取り、手当なしの休日出勤や時間外労働を強要する。(東京地判H28.12.20) |
業務をさせない・業務限定・現象・業務変更 |
業務を一切させないことは、労働を拒絶・否定するものであり、労働者の心身に強度の負荷をかけるものであるため、違法となる。
例えば、13年間の長期にわたり意味のある仕事をほとんど与えなかったこと(神戸地判H29.8.9)
麻酔科医を一切の手術麻酔の担当から外したこと(東京高判H26.5.21)
ただし、業務限定・現象、業務変更については、使用者側の判断や裁量がある程度尊重される傾向にある。 |
私的領域への踏み込み・価値観の押し付け |
個人の人格権や人格的利益に対する直接的な打撃を与え、労働者の心身に強度の負荷をかけうるため、違法と評価されることがある。
例えば、
- 婚姻予定という私的事項を公にするように強いる発言
- 本名である韓国名を名乗るように求め、身体的特徴や独身であることを揶揄するような発言
- 「同期との飲み会は何より優先すべきだよ。そうしないと周りから誰もいなくなるよ」という発言
- 営業目標の不達成の場合には私物の自動車を売却するように促す言動(東京地判H25.12.13)
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他者との不公平な取り扱い |
同じ立場にある他社と比較して不公平な取り扱いをすることは、そうした取扱を受けたものの心身に負担をかける一方で、業務上の必要性・相当性がないため、違法と評価されうる。
例えば、同じ医療過誤に関与した複数の看護師につき、他の看護師に比較して落ち度が明らかに大きいとは認められないのに、1人のみに反省文を書かせたこと。(福岡地小倉支判H27.2.25) |
その2 言動の態様、方法
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場所・公然性 |
当該行為が被害者以外の第三者に晒される状況で行われたことは、パワハラ要素になる。このような場合、労働者の心身に与える負荷はより大きくなるからである。
例えば、朝礼での公表や、他の従業員の耳目に触れる形での説教(長崎地佐世保支判H25.12.9) |
時刻・回数・継続時間 |
当該行為が業務時間外に行われた行為であるほど、また、行為が行われた回数が増えるほど(反復性)さらに、継続時間が長時間に及ぶほど、パワハラになりやすい。
例えば、終業時間を過ぎた後、月2回以上、かつそのうち数回は2時間を超えて、合計9回行われた叱責をしたこと、10分間にわたって叱責し続けたこと(岡山地判H26.4.23) |
不適切なプロセス |
被害者の言い分をきかずに処分を行うことがパワハラになることがある。 |
口調・声の大きさ |
口調については強く、厳しいほど、声の大きさについては大きいほど、労働者の心身に与える負荷が大きくなるため、パワハラになりえる。しかし、強く厳しい口調や大きな声で指導が必要となる場面もあり、区長や声量自体が、パワハラを決定づける重要な考慮要素になるとまでは言えない。 |
その3 被害者側の事情
パワハラの成否は、あくまで当該業務における平均的な労働者を基準に判断しますが、実際に当該労働者がどのような状態になったかをみることで、負荷の程度を推認します。
その4 加害者と被害者の関係性
被害者との関係で、加害者の優位性が強いほど、パワハラになりえます。代表取締役と従業員、店長と店員、経験豊かな上司と入社間もない部下、校長と管理職、主任と部下、先輩と後輩、といった要素があります。
【 パワハラを否定する事情】
1 被害者に落ち度や帰責性があること
被害者の業務上の不正、大きなミスや改善されるべき点がある場合には、相当程度に厳しい指導が行われることがやむをえません。
したがって、そうした事情がある場合には、パワハラにならない、なったとしても慰謝料を減じる理由になります。
2 業務の性質上の必要性があること
たとえば、業務の性質が生命・健康を預かるものであることは、厳しい指導を許容する理由になります。
【弁護士の解答】
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慰謝料 |
被害の程度により幅がある |
弁護士費用 |
損害額の1割程度 |
治療関係費用 |
治療・入通院費用等 |
休業損害 |
パワハラを原因とする傷病による休業中に得られたであろう収入 |
逸失利益 |
【死亡】
生涯得られた収入
【賃金】
退職を余儀なくされた場合、半年~1年分程度の賃金
(青森地判H16.12.24・岡山地判H14.5.15など) |
【公務員の個人責任について】
判例は、公権力の行使にあたる職務に関しては、国家賠償法の解釈として、公務員個人の損害賠償責任を否定しています(最三小判昭和30年4月19日ほか)
したがって、パワハラ行為が職務外で行われたと認められない限り、公務員である加害者個人への損害賠償は否定されることになります。
【弁護士の解答】
金額は、1万円~2000万円以上の高額なものまで様々です。
①パワハラ行為の悪質性
②行為の継続性
③結果の重大性
④被害者側の対応・素因などの考慮要素を総合的に判断して決めます。
たとえば、パワハラを理由に退職を余儀なくされた場合や、うつ病になった場合、自殺した場合などは、大きな慰謝料となる傾向にありますし、長期間のパワハラであるほど、増額傾向にあります。
【具体例】
上司の侮辱的な指導・叱責にパワハラの意図がない場合 |
5万円程度 |
暴言や胸ぐらをつかんで前後に揺さぶった暴行 |
5万円程度 |
退職に追い込むために極めて執拗かつ陰湿で不当な隔離、監視、嫌がらせ的な業務指示を繰り返した場合。(長野地判H24.12.21) |
200万円 |
大学の准教授が約9年間にわたって共同実験室等への入室を制限されたことで研究活動が長期間卯垣された場合。(金沢地判H29.3.30) |
150万円 |
【被害者側の落ち度】
実務上、パワハラに至った経緯に被害者側の落ち度が認められる場合や、精神疾患の発病などに被害者の素因が寄与しているといった被害者側の事情については、過失相殺や素因減額ではなく、慰謝料金額の減額要素として考慮されています。