Q1.子供の大学進学費用も支払い義務があるか

【実務上の理解】

大学などに通う20歳を超えた子供の学費などの負担について、実務の基準は明確ではありません。養育費は20歳までで、20歳を超えた大学生の学費などは原則として支払い義務がないとする説と、義務者が大学を卒業している場合などはむしろ子供の学費などを支払うことが一般的であるとする説があります。

【適用条文】

民法766条類推適用が有力説です。民法877条とする説もあります。

民法766条1項に定める子とは、未成熟子をいい、20歳を過ぎても仕事をせずに大学等に通っている子は未成熟子に該当するとした判例があります(東京高判平成12年12月5日)。しかし、子が大学に進学しただけで未成熟子として義務者に養育費支払い義務が生ずるのではなく、「義務者に経済的余裕があり、子の大学進学を認めている場合には、未成熟子と認められて、大学卒業するまでの間、日常の生活費及び学費を含めた養育費の支払いが認められることがある。」と述べる学説もあります。

【20歳を超えた子の学費などの支払いを認めた判例】

(1) 大阪高判平成2年8月7日

薬科大学生の長女が医師である父親に扶養料を請求した事案について、「長女が生育してきた家庭の経済的、教育的水準に照らせば、4年生大学を卒業すべき年齢まで長女はいまだ未成熟子の段階にあるものとして、父親が扶養料を負担するのが相当である」としました。

(2) 東京高判平成12年12月5日

「4年制大学の進学率が相当高い割合に達しており、かつ、大学における高等教育を受けたか否かが就職の類型的な差異につながっている現状においては、子が義務教育に続き高等学校、そして引き続いて4年制の大学に進学している場合、20歳に達した後も当該大学の学業を続けるため、その生活時間を優先的に勉学に充てることは必要であり、その結果、その学費、生活費に不足を生ずることがありうるのはやむをえないことちいうべきである」としました。

【算定方法】

(1) 子が大学を卒業するまで、子が19歳の場合と同様に算定表に基づき養育費を算定する方法。調停ではこの方法によることが多い。

(2) 成人に達した子に対する親の扶養義務は、生活保持義務ではなく、生活扶助義務にとどまるものとして、子の必要額(アルバイト、奨学金等によっても不足する額)の一定割合を義務者に負担させる方法(東京高決平成22年7月30日)。判例が採用し、比較的義務者の支払い額が低くなるのは、(2)の方法です。

参考条文

民法

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)

第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

(扶養義務者)

第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

Q2.養育費の支払い義務の根拠はなんですか?

【弁護士の解答】

直系血族である親は、子を扶養する義務を負っており、これは親権の有無を問わず、親権を有しない親であっても子の扶養義務を負います(民法877条1項)。父母が離婚するときには、「子の監護に関する費用」の負担等を協議で定めるものとされ(民法766条1項)、協議が調わないときや協議できないときには、家庭裁判所に調停申立てをなし、調停が成立しないときには、審判手続に移行します(家事272条4項)この「子の監護に関する費用」を「養育費」と呼称しています。養育費は、子の食費、学費、医療費等の生活費に使用するものです。

Q3.養育費の支払金額の程度とは?

【弁護士の解答】

「生活保持義務」とは、「自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務」です。たとえば、婚姻扶養や養育費の支払義務がこれにあたります。「生活扶助義務」とは「自分の生活を犠牲にしない限度で、被扶養者の最低限の生活扶助を行う義務」です。たとえば、親族間の扶養義務がこれにあたります。上記区分は条文で定められているものではないが、現在も判例、実務で採用されています。

Q4.子の母が再婚して、再婚相手が子と養子縁組した場合でも、父親が養育費を支払う義務がありますか?

【弁護士の解答】

判例は「養子制度の本質からすれば、未成熟子の養子に対する養親の扶養義務は親権者でない実親のそれに優先すると解すべきであるから、母の分担額を決めるに当たっては、養父の収入・支出等も考慮することとする。」としています(神戸家姫路支審平成12年9月4日)。したがって、子が養子縁組をした場合には、まず養親の扶養義務が優先するとの考えが通説です。もっとも、再婚しても、養子縁組がされていない場合、父親の養育費支払義務に影響はありません。また、母親の収入に、再婚相手の収入を加算して、養育費の計算をすることもないとされています。

Q5.子の面会交流ができないとき、養育費を支払わないことができますか?

【弁護士の解答】

原則できません。

しかし、福岡家審平成26年12月4日判時2260号92頁では、面会交流が実現できなかった場合、その月の養育費の支払を免除する、との条項を設けました。これはかなり異例な判断です。

Q6.再婚と養育費負担義務との関係性について教えて下さい。

【弁護士の解答】

再婚しただけでは原則として養育費の減額は認められません。再婚相手の子供を養子縁組した場合には、減額が認められることがあります。

【審判例】

父母が離婚し、父母双方が離婚後別の相手と再婚し、子が再婚相手と養子縁組したケースで、実父からの養育費減額請求に対して事情の変更を理由に請求を認めた(東京家審平2.3.6)
子が母の再婚相手と養子縁組をした後に、前夫に協議離婚の際に定めた養育費の支払いを求めたケースで、前夫は母や養父に劣後する扶養義務を負うにすぎないとして、前夫に対する養育費の請求を却下した(神戸家姫路支審平12.9.4)

前夫が、前妻が再婚したことを理由に養育費減額請求をした場合、再婚後の前妻の家庭の状態、扶養義務者の社会的地位、経済的余力等諸般の事情が考慮されます。

例えば、再婚相手が子供の養育費を含め、新しい家族の生活費全般を負担する意思も経済力もある場合には、養育費を取り決めた離婚時に予測しえなかった個人的事情に変更があるとして前夫の養育費減額請求が認められる可能性があります。

Q7.養育費や婚姻費用が調停でした約束通りに支払ってもらえない場合、どうしたらよいか?

【弁護士の解答】

強制執行ができます。

【特別規定】

民法上の扶養義務に基づく定期金債権(養育費、婚姻費用など)についてのみ、一部でも不履行があれば、支払期限が到来していない将来部分についても一括して強制執行ができます(民執法151条の2第1項)。ただし、この特例に基づき差し押さえることができる財産は、給料のほか、地代・家賃等の賃料債権、商品・役務の継続的供給契約に基づく売掛金などで、養育費等の支払期限後に支払われるものに限ります。つまり養育費などの未払いに対しては、事実上の給料の天引きが認められています。

【差押えの効力が及ぶ範囲】

(1) 給料等に対する差押えは、原則として、給料等の4分の1までしか認められません。

(2) 特例

しかし養育費などの扶養義務に掛かる金銭債権に基づく強制執行の場合は、給料等の2分の1まで差押えが認められます(民執法152条3項)。